第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM
多摩市立永山公民館(ベルブ永山 3階)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ 7階)
戦争に生きる夫と離れること10年余。北イタリアの古城で読書し、歌を唄い、踊り、森を散歩して過ごす若い公爵夫人。周囲はそんな彼女の孤独を憂い古城を墓場とみなす。しかし、この生活は選び取ったものなのだと彼女は譲らない。オーストリアの作家ロベルト・ムージルの小説を、マノエル・デ・オリヴェイラの盟友、アグスティナ・ベッサ=ルイスが脚色。フランドル派絵画のような映像が鮮烈な印象を残す、スタイリッシュな歴史劇。
小津や溝口を敬愛するリタ監督らしい、画面の隅々まで美意識が行き届いたシーンの連続にため息。どこか演劇的な歴史劇のなかに現代的な要素も見え隠れし、女性たちが戯れるシーンはジャック・リヴェットを彷彿とさせる。(ゆ)
別れてから一年経つ男女、映画の撮影に苦悩する映画監督とアシスタント、そしてモーツァルトの「ケーゲルシュタット・トリオ(ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲変ホ長調 K.498)」。三つが複雑に交錯し、トリオ(三重奏曲)を奏でる。エリック・ロメールが唯一記した戯曲『変ホ長調三重奏曲』を映画化した、リタ・アゼヴェード・ゴメス監督の現時点での最新作。
撮影に使用された別荘はポルトガル随一の世界的な建築家アルヴァロ・シザのデザイン。その特徴的な構造や細部をじっくり見ることができるのも、この映画の魅力のひとつと言えるだろう。
コロナ禍の困難な状況でも、このような瑞々しい新作を届けてくれるリタ監督のバイタリティーは、映画に本当に必要なものは何かを教えてくれる。(ゆ)
愛とは何だろうか?集団的な情熱こそが、映画が存在するために必要なものである。可能性 という魔物が存在する。私は、自分の中に存在しない何か必要なものに突き動かされていた。 資金援助者からの答えを待つのは嫌だった(一度も待ちたくなかった。それは今でも可能なのだろうか?もしかしたら……)
とにかく映画を撮るつもりだった!
俳優たち、技術監督、メンバーの大半がすでに『ある女の復讐(A Vingança de uma Mulher)』『書簡集(Correspondências)』や『ポルトガルの女』などの私の 過去の作品で、すでに一緒に仕事をしていた人たちだった。皆「さあ、映画を作ろう!」と私に応えてくれた。
昨年11月、私たちはポルトガルの北部ミーニョ州のモレドへ、総勢12人で出発した。友人である幸運の持ち主、ゴンザロ・ガルシア・ペライヨの魔法のようなポケットにあったビットコインで、撮影のための基本的な費用を賄うことができた。
一方で新型コロナウイルス(covid)の検査という問題もあった!
モレドの空は撮影が待ちきれない程素晴らしく、またこの映画のために見つけた家は完璧だった。確固な固定観念にとらわれず、ギリギリになって気づき感じたものがそこにはあった。60年代にロメールによって書かれた唯一の戯曲であるLe trio en Mi Bémolを着想源として、出発前にZoomで何回かリハーサルを行った後、撮影へと旅立った。
これほどまでに集団制作によって、感動的で愛される映画があっただろうか。外は、閉ざされた世界だった。まるで、誰も死なず生まれ出づることのないデロス島のように、誰も外に出ることも中に入ることもできない。私たちは激烈に作業を行ったが、ある種の牧歌的な雰囲気の中で、つまり幸福な相互一致の下で行われた仕事だった。一種の感傷的な喜劇である。
歳をとって嗄れた私たちには、三週間は短い時間であったが、この映画が編集の終盤を迎えた今日では、三週間は広大なものである。
閉じてしまう扉/開きたい扉という一つの矛盾がそこにある。矛盾した存在である私は、その矛盾によって何かを暴くのではなく、むしろ矛盾をもたらすように運命づけられているのだ。私の大きな矛盾は、現実を前にして常に深く曖昧である方法をとる方向へと私自身を強いるのである。
私が信じているものは、行うことの中にある可能性である。
リタ・アゼヴェード・ゴメス監督
2021年5月(「カイエ・ドゥ・シネマ」インタビューより) 訳:小城大知
1952年生まれ。現代ポルトガルの重要な作家としてこれまで『Frágil como o Mundo』(2001)や『Altar』(2002)、『A Vingança de Uma Mulher(ある女の復讐)』(2012)など多くの作品を制作。『ポルトガルの女』(2019)は、ラス・パルマス国際映画祭で最優秀賞を受賞するとともに、日本でもイメージフォーラム・フェスティバル2019、EUフィルムデーズ2021で上映され高い評価を得る。新作『変ホ長調のトリオ』(2022)はベルリン国際映画祭フォーラム部門でワールドプレミアされて以降、全州国際映画祭など数多くの映画祭で上映。日本では本年8月に広島大学映画研究会主催で初上映された。
映画批評家。2003年よりシネクラブ&ウェブサイトであるNew Century New Cinemaを立ち上げ、世界の日本未公開作品や作家の紹介上映活動をおこなう。著書「フレームの外へ──現代映画のメディア批判」(森話社) http://www.ncncine.com