第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM
PassMarket【一般、子ども(4歳~小学生)】
PassMarket【支援会員、障がい者・付添者】
多摩市立永山公民館(ベルブ永山 3階)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ 7階)
蘇畑佳純(三浦)は音大を卒業後、チェロの道に自信を失くして実家に戻り、コールセンターで働いている。30歳の彼女の周囲には、出会いを求めて積極的な同僚や勝手にお見合いをセッティングする母……。佳純自身にも気の合う人がいないわけではないが、どうしても恋愛関係になりたいと思わない。自分ではそれで十分と思っていても、周りは理解してくれない。そんなとき、地元に戻ってきた中学時代の同級生・世永真帆(前田)と再会して自分の考え方を再確認することになる。
私は朝の中田島砂丘に行って感動したことがあるが、浜松の海岸に行くと空と海からたくさんのエネルギーを受け取っているような感覚になる。佳純は何を求めて海辺に行くのだろう。
内面を掘り下げるとはよく言うが、簡単なことではない。佳純にとっては真帆との再会が補助線となり、少し踏み出すことで、周囲に自身の考えを伝えることにつながっていった。それは段階的でも突発的でもあったが、自分のペースを大きく崩さずブレることなく生きていく佳純の姿は、観る者にも自己肯定感を与えてくれる。きっと「まず相手の言葉をそのまま受け止める」姿勢をもっているからだろう。
キャストは実力派揃いで、とても観ごたえのある本作。個人的には主題歌「風になれ」を気に入っていて、現在でも繰り返し聴いている。米国では2023年7月に『バービー』(グレタ・ガーウィグ監督)が公開され大ヒットしたが、その約7か月前に日本で本作が公開されていた!ということを世界中に発信したい。(渉)
京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル」通称「ぬいサー」を舞台に、 “男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森(細田)、七森と心を通わす⻨戶(駒井)、そして彼らを取り巻く人びとを描きながら新しい時代の優しさの意味を問いかける。
「ぬいぐるみとしゃべる」その姿を、映像を通して見ることは衝撃であったが、身に覚えもあった。自分も小さい頃ぬいぐるみをどこにでも連れて話していた。思えば絶対的な味方を連れて経験を分かち合っていたのかもしれない。
ぬいぐるみは不思議だ。形も大きさも表情も多様だ。話しかけるとすべてを引き受けてくれる優しさと包容力を感じる。もっともこれも随分と人の勝手ではあるが……。
ぬいぐるみとしゃべる人は、発することで傷つけたり傷ついたりするリスクを回避している人をはじめ、さまざまであり、多方面への配慮と尊重を考えるとこれは「優しさ」だ。だけどあまりに優し「すぎる」から私は苦しかった。言葉の傷は私も勝手に受けたこともあるし意図せず与えたこともある。でもぬいサーで同じように思う人が存在していることを知るだけで、七森と麦戸が苦しみながら一歩歩むことだけで、観ている私まで慰められているような気がするのだ。
個人的にこんなに大切にしたいと思った作品ははじめてだ。七森をはじめ、ぬいサーのみんなは私の大切な存在である。(月)
脚本家・放送作家。「ウゴウゴルーガ」(1992年)で放送作家デビュー。以降、「笑点」「エンタの神様」「週刊ストーリーランド」などのバラエティ番組、「紙兎ロペ」などのアニメ、漫画「ストレンヂフルーツ」の原作まで幅広い作品を手掛ける。近年の映像作品は企画・脚本として携わったドラマおよび映画の『カフカの東京絶望日記』(2019年)、『his』(20年)。本作 『そばかす』(22年)では、企画・原作・脚本を務めた。
1992年生まれ、東京都出身。脚本家・俳優。2016年に明治大学実験劇場を母体に、「コンプソンズ」を旗揚げ。主宰を務め、作演出を手掛ける。NHK「キングダム」第3・4シリーズ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023オープニング作品『瞼の転校生』(23年/藤田直哉監督)、『脳天パラダイス』(20年/山本政志監督)などの作品に脚本家として参加するほか、俳優としても積極的に活動している。24年1月には、コンプソンズ#12「岸辺のベストアルバム‼」を公演予定。