第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM
朝子(唐田)は、不思議な青年・麦(東出)と運命的に出会い恋に落ちる。幸せな時間を過ごす朝子だったが、ある日突然、麦は姿を消してしまう。それから2年が過ぎ、住んでいた大阪を離れ、東京で働いている朝子の前に、以前の恋人・麦と同じ顔をした亮平(東出・2役)が現れる。
運命の出会いで始まる物語。その後の折々にも運命的な出来事が物語を推進させていく。登場人物にも、その不自然さを言及させているが、これが物語の映画化でなく物語に対する批評の映画化だとすると腑に落ちる。
現実感の無い、薄い霧の向こうで起きているような麦と朝子の関係。その後の亮平との関係も、どこか壊れそうな危うさが、常にまとわりついている。起きている事柄はドラマチックだが、恋愛映画らしからぬ突き放した冷徹な視点で物語は進む。それは、恋愛というものの社会におけるさまざまな仮構性(結婚して家を買って――)を浮き立たせる。だが本来、恋愛は社会に組み込まれないものなのではないか。その本質は衝動であり、ある意味では破壊的とも言えるのではないか。そして、そのなかに挟まれる震災の爪痕を思わせるシーンの圧倒的な現実感に私たちの住む現実と映画の世界の、その仮構性は変わらないことを思い知るのだ。この映画は観た人の軛を浮き立たせる。願わくは、この映画に触れ、映画を観るという行為の本質に触れて欲しい。(松)
1988年生まれ、埼玉県出身。2012年、俳優デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。13年にはNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」に出演して注目される。『クローズEXPLODE』(14年)、『デスノート Light up the NEW world』(16年)などで主演。本年の出演作として『OVER DRIVE』『寝ても覚めても』『菊とギロチン』がある。20年に『峠 最後のサムライ』の公開が予定されている。