第28回映画祭TAMA CINEMA FORUM
結婚に踏ん切りがつかずにカレと別れたこじらせ女子・ふみ(深川)は、パン屋で働いている。ふみは偶然再会した中学の同級生、ハツコイ相手のバス運転手・たもつ(山下)と付き合い始めるが、彼からバツイチ・子持ちであると告げられる。そして中学時代にふみを好きだった主婦・さとみ(伊藤)も絡み、おかしな三角関係かと思いきや……。
映画は普通、スクリーンのなかのドラマを客席から見て感情移入したり、感動したりするもの。でもこの映画、出演者が横並びになるシーンが多いことにお気づきですか?重要なシーンでは、ふみと誰かが横に並び、目線と微妙な表情によって、対面した私たち観客に時間を与え何かを考えさせる。観客は、ふみと元カレとのシーンでの2人の目線の違いから噛み合わない将来を察し、バス待ちのふみの1ショットでバスの営業所を見ていること、そのくり返しでそこで働くたもつを想っていること、終いにはそこにフレームインしたたもつとお願いしていた洗車機デートをするまでの展開を自然の流れとして受け入れる。ふみの部屋、ふみとたもつに妹の二胡(志田)を加えての3ショットのみつめる先は、もう疑う余地もなく二胡が描いたふみの肖像画。このくり返しに慣らされた観客は、ラストシーン、客席ではなく昇る朝日に向かって寄り添う2ショットから、二人の明るく幸せな行く末を想像させられる。チャップリンの『モダン・タイムス』のエンディングさながらに……。見事な映像表現、今泉マジックです。(伊)
“僕”(柄本)は、函館市内の書店でアルバイトをしながら失業中の友人・静雄(染谷)と2人で暮らしていた。ある日を境に“僕”の同僚・佐知子(石橋)もそこに加わるようになり、3人は毎晩のように酒を飲み、遊び明かす日々を過ごしていく――。やがて終わりゆく青春の時間を描いた作家・佐藤泰志による同名小説の映画化。
男2人と女1人で構成される友情には、次の瞬間には壊れてしまいそうな脆さと儚さがある。そしてその脆さや儚さは、3人がそれぞれ現実に目をそらしながら漂うように過ごす時間のなかにも感じられる。どんなに目をそらし続けたところで、“僕”たちの日々の裏側で世の中は動いていくし、絶妙なバランスのなかで成り立っていた関係性も変わっていくのである。この、いつかは終わってしまうという予感が横たわっているからこそ、コンビニのカゴに余計なものを入れまくって笑ったり、クラブで酒を飲んで踊ったり、若さと自由さを持て余した永遠のような一瞬一瞬が、こんなにも眩しく美しいのだろう。“僕”と静雄の間でどこまでも奔放に動きまわるヒロイン佐知子の輝きが象徴的だ。3人のように自由な青春時代を送ったことのある人、いままさにこんな時間を過ごしている人、どちらの心にも響くものがある映画だと思う。(寛)
1981年生まれ、福島県出身。名古屋市立大学芸術工学部在学中から自主映画制作に取り組む。2009年『最低』で第10回TAMA NEW WAVEグランプリを受賞。10年、音楽ドキュメンタリー『たまの映画』で商業監督デビュー。12年、『こっぴどい猫』が海外で高い評価を得ると、『サッドティー』(14年)『知らない、ふたり』(16年)『退屈な日々にさようならを』(17年)などを発表。今後、新作2本の公開が控えている。
1984年生まれ、北海道出身。2007年映画美学校卒業後、初長編『やくたたず』(10年)を監督。劇場公開第1作『Play back』(12年)がロカルノ国際映画祭に正式出品され、高崎映画祭新進監督グランプリ、日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。ほかに『THE COCKPIT』(14年)、初の時代劇に挑戦した『密使と番人』(17年)など。本年公開の『きみの鳥はうたえる』は佐藤泰志の小説の映画化4作目にあたる。19年には『ワイルドツアー』が公開予定。