第31回映画祭TAMA CINEMA FORUM
東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子(門脇)は婚活に奔走、弁護士の幸一郎(高良)との結婚が順調に決まる。一方、大学進学を機に上京した地方出身者の美紀(水原)は、学費が払えず夜の世界で働くも大学を中退し、その後も東京で働いている。出会うはずのなかった二人が、幸一郎をきっかけに出会うことになり……。
本作では、異なる世界を生きる二人の女性の物語を丁寧に描いている。身なりや歩き方、声のトーンに至るまで、華子の家柄や育ちの良さを感じさせる。一方で、バッグを斜めがけに自転車を漕ぎ、髪をなびかせる美紀には自分に近いものを感じる。「東京って棲み分けされているから、“違う階層”の人とは出会わないようになってるんだよ」という逸子(石橋)の言葉通りなら本来は出会うことのなかった二人が、幸一郎をきっかけに会うことになる。一人の男性を巡って女二人が対立する……とはならない。むしろ、その出会いが自分で人生を切り拓こうとする力、幸せとは案外もうそばにあるのではないかという気づきを与えてくれる。それは、華子や美紀を越えて私にも届いている。
原作をリスペクトしながら、どんな人生も否定しない理解と尊重をもった岨手監督が作り上げた世界は、優しく寄り添い、そっと背中を押してくれた。(水)
1983年生まれ、長野県出身。大学在学中に製作した短編『コスプレイヤー』が2005年の水戸短編映像祭、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)に入選。08年、初長編『マイムマイム』がPFFで準グランプリ、エンタテインメント賞受賞。09年、文化庁委託事業若手映画作家育成プロジェクトで35mmの短編『アンダーウェア・アフェア』を製作。15年、長編商業映画デビュー作『グッド・ストライプス』で第7回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、新藤兼人賞金賞を受賞。21年の『あのこは貴族』は20近くの国際映画祭から招待を受けており、台湾、香港、フランスでの公開が決定している。
1980年生まれ、富山県出身。作家。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、12年「ここは退屈迎えに来て」でデビュー。主な著書に「アズミ・ハルコは行方不明」「さみしくなったら名前を呼んで」「選んだ孤独はよい孤独」などがある。団地団への参加は13年秋から。16年に刊行した長編小説「あのこは貴族」が岨手由貴子監督によって映画化され、本年度TAMA映画賞最優秀作品賞を受賞!
1972年生まれ、愛媛県出身。ライター。日本や韓国のエンターテインメントについて主に執筆。著書に「K-POPがアジアを制覇する」(原書房)、共著に「韓国映画・ドラマわたしたちのおしゃべりの記録2014~2020」(駒草出版)「『テレビは見ない』というけれど」(青弓社)など。TBSラジオ「文化系トークラジオLife」や「アフター6ジャンクション」などにも出演。『VOCE』のWEBサイトや朝日新聞デジタル&M、文學界などでインタビューや対談連載中。