今泉力哉監督と城定秀夫監督がお互いの脚本を映画化するというプロジェクトが発表されてから数ヶ月後、2022年春の劇場公開前に本映画祭（2021年11月14日）にて世界初上映されるとあって、いち早くチケットが完売したプログラム。2009年の第10回TAMA NEW WAVEコンペティションで、グランプリを受賞して以来、何度もTAMA映画祭にお越しいただいている今泉監督と、『アルプススタンドのはしのほう』で昨年、第12回TAMA映画賞特別賞を受賞、上映プログラム〝鬼才の狂宴　いまおかしんじ監督×城定秀夫監督〟のトークにご登壇いただいた城定監督をゲストにお迎えし、映画評論家の森直人さんを聞き手として、このプロジェクトのスタートから今回の世界初上映までの流れと裏話などを伺いました。

本作品の主題歌を担当したミュージシャン、みらんさんによる「低い飛行機」のミニライブも行い、映画の余韻に浸る貴重なひと時となりました。

森直人さんの「おもしろい！」の第一声から始まったトーク。城定監督は、はじめ、冗談みたいな企画だと思ったことや今泉監督とのプライベートでのお付き合いのお話、今泉作にはいつも注目していて、このような機会に恵まれたことが嬉しかったと、脚本を手掛けた今泉監督は、自分には撮れない作品だし、長編で自分が書いた脚本を他の人が撮るというのは初めての経験で、面白かったし、嬉しかったと、おっしゃっていました。どちらの作品も脚本を渡したあと、お互いに手直ししたところもあったため、クレジットの脚本は連名になっているとのこと。

脚本を読んで、今泉監督ならではの会話の多さ、少ないシーンをそのまま撮ってしまうと今泉監督が撮っているような作品になってしまうので、構成などを変えたり、会話以外のシーンを増やしたりしていったと城定監督。脚本は第二稿ぐらいまではお互いに直し合い、途中からは自由にやっていくことができ、思った以上に良い企画だったと。

作品のタイトルについては、今泉監督は『愛がなんだ』があったので、〝愛〟は使わず、『遊びと私生活』という硬いタイトルを付けたとおっしゃると、城定監督は、『猫は逃げた』は、はじめ『猫なのに』というタイトルであったことを打ち明け、タイトルが決まった過程について、お互いのこだわりなどを面白おかしく語り合っていました。

お互いの作品の関連性については、あまり意識していなかったということでしたが、毎熊克也さんが両方に出演したり、猫のオセロや時間軸については関連性を持たせたりしたそうです。キャスティングについては、瀬戸康史さんが出てくれると聞いて、今泉監督はそんな有名な人が出てくれるのかと驚き、楽しみにしていたとのこと。他の役者さんも非常に良く、特に中島歩さんは『愛がなんだ』でご一緒していたので、人となりも知っていたけれども、途中から中島さんが欲しくなり(笑)、〝中島さん待ち〟みたいな状態になったと、会場の笑いを誘っていました。

今泉監督は、ご自身の作品では座って会話するシーンが中心になりがちだけれども、城定監督でなければ撮れないカメラワークや人の動かし方など、とても勉強になったので、今後に活かせると思ったと、森さんいわく「後輩感」を出すと、城定監督は、今泉監督の〝動かない〟のが凄いと思うと、ここでもリスペクトし合うお二人。それでも、お互いに自分が撮ったほうが良いと思われないようにしようと意識していたというお話も興味深かったです。

森さんが、城定監督ならではのセックスシーンについて尋ねると、瀬戸康史さん含め、役者の皆さんがとても頑張ってくれたことや、濡れ場ぐらいしか今泉力哉に勝てるところがないと思っていたとおっしゃると、ここでも会場から笑いが…。城定監督は、物語の後半の瀬戸康史さん扮する多田浩司の「好き」ということを巡る思索について、キャラクターが完全に今泉さんのものなので、それをどう動かすかを考えたとか、恋愛映画はもともと苦手だけれども、笑いがあり、リアルで面白い今泉作品だけは追いかけていたので、そういう意味でも今泉監督の影響を受け過ぎないよう意識したと。

今泉監督は、ご自身の脚本なのに作品として観たときに、撮影の状況を知らなかったので、思わず泣いてしまいそうなシーンがあったと吐露し、試写会のあと、城定監督にお礼を言ったら、自分は書いていないとか、書いたとか、ヘンな言い合いになったというお話も。先輩・後輩感を醸し出しながら、終始、お互いにリスペクトし合っているお二人のお話は、とても興味深く、世界発上映直後ではありましたが、来春の公開が待ち遠しくなりました。

トークのあとは、『愛なのに』の主題歌を担当した、みらんさんが登場。初めてご自身の楽曲がエンドロールで流れたのをご覧になった感動を胸に、「低い飛行機」を弾き語りしていただきました。

ご登壇いただいた、城定秀夫監督、今泉力哉監督、聞き手の森直人さん、みらんさんをはじめ、本プログラムに関わってくださった関係者の皆様、そして、ご来場いただいたお客さまに心より感謝いたします。

※『愛なのに』劇場公開日 2022年2月25日
　『猫は逃げた』劇場公開日 2022年3月18日

※プログラムレポート：【B-4】プレヴュー「"L/R15" 今泉力哉×城定秀夫」『猫は逃げた』は、こちら。

リンク：

プレヴュー「"L/R15" 城定秀夫×今泉力哉」『愛なのに』 | 第31回映画祭TAMA CINEMA FORUM