第32回映画祭TAMA CINEMA FORUM
多摩市立永山公民館(ベルブ永山)
多摩市立関戸公民館(ヴィータコミューネ)
パルテノン多摩 総合窓口(【B-1】~【B-8】のみお取扱い)
10歳の少女更紗(白鳥)は、引き取られた伯母の家に帰れず雨降る公園にいた。傘を差し出し家に招き入れたのは、19歳の青年佐伯文(松坂)。居場所を見つけた幸せを噛みしめたその夏の終わり、文は「誘拐犯」、更紗は「被害女児」となった。15年後、偶然の再会を遂げた更紗(広瀬)と文。それぞれの隣には現在の恋人、亮(横浜)と谷(多部)がいた。
「誘拐犯」の文と「被害女児」の更紗。15年の時を経て、ふたりだけの「真実」とは異なる「事実」が二人の「いま」をかき乱す。最も身近なはずの現在の恋人も相手を理解することへの恐怖、善意や悪意を超えた何かに本質をあぶり出され、ひどく傷つき苦しむ。追い詰められた更紗と文が過去と現在を交錯させながらたどり着いた「真実」、恋人関係でもなく、ましてや誘拐犯と被害女児ではなく、ただただそばにいるだけでいいという互いの存在。それを象徴するラストシーン、「事実」が何度彼らを打ちのめそうとも「そしたらまたどこかに流れていけばいいよ」と更紗が文の手を握り、その彼方上空の三日月という至高の映像が「真実」の美しさと強さを私たちの心に刻みこむ。李相日監督の演出において、広瀬すずさん、松坂桃李さん、横浜流星さんなどの役者が「真実」を体現することでもたらしてくれたものは、どんなに厳しい世間にあっても静謐で仄かな光と水に満ちたこの世界の片隅にはきっと生きる居場所があるという希望なのである。(凛)
2010年、東京都生まれ。11年より1歳で芸能活動をスタート。16年、朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」でドラマ初出演を果たす。『永い言い訳』(16年)、『すばらしき世界』(21年)などの西川美和監督作品で注目を集めるほか、ドラマ「凪のお暇」(19年)、「テセウスの船」、朝の連続テレビ小説「エール」(20年)、大河ドラマ「麒麟がくる」(20〜21年)、「極主夫道」(20年)など、出演作が相次いでいる。本作では約800名の応募のなかからオーディションで更紗役に選ばれた。
1974年生まれ、新潟県出身。大学卒業後、日本映画学校(現:日本映画大学)へ入学。卒業制作作品『青〜chong〜』(99年)がぴあフィルムフェスティバル(PFF)/アワード2000でグランプリを含む4冠に輝く。新藤兼人賞金賞受賞の『BORDER LINE』(2002年)、村上龍原作にトライした『69 sixty nine』(04年)、『スクラップ・ヘブン』(05年)を経て、『フラガール』(06年)で第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。近年は、『悪人』(10年)、『許されざる者』(13年)、『怒り』(16年)など深い人間洞察に満ちた映画を次々と送り出している。