第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM
1994年、ソウル。14歳のウニ(ジフ)は、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。ある日、通っていた漢文塾に女性教師のヨンジ(セビョク)がやってくる。ヨンジは、ウニにとって初めて自分の人生を気にかけてくれる大人だった。ある朝、ソンス大橋崩落の知らせが入る。それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く。
本作は、主人公・ウニの感情の機微をただ静かに写し出す。そして、彼女自身もまた胸の内の多くを吐露しようとはしない。私は鑑賞中、作中で語られない心情の「余白」に自身の10代の記憶を重ね合わせしんみりしてしまった。けれど、息苦しい世界の中でもがくウニにかつての自分を重ねてしまうのは、きっと私だけじゃないはず。
また、本作はウニの視点を通して「人と人とのつながり」や「個人と社会とのつながり」といった普遍的なテーマを私たちに問いかける。14歳の女の子の成長物語と、社会的な大きい物語が地続きになっており、批評的かつ優しい眼差しで私たちの生きる社会を捉えている。私はこの展開に圧倒されたと同時に、これからの人生に少しの希望を与えてもらえた。(バ)
朝鮮戦争下の巨済捕虜収容所に赴任した所長の意向により、捕虜のダンスチームが結成されることになる。北朝鮮兵ロ・ギス(D.O.)はかつてブロードウェイダンサーだった下士官ジャクソン(グライムス)のタップダンスに惹かれてチームに参加する。年齢・性別・国籍もまとまらないメンバーが集まって公演を行うことになるが、その裏ではさまざまな思惑が動いていた。
日本でもリメイクされた『サニー 永遠の仲間たち』のカン・ヒョンチョルが監督・脚本を務める本作では、捕虜収容所という希望のない環境のなかで寄せ集められた「スウィング・キッズ」が見様見真似で始めたタップダンスの魅力に目覚めていきます。
バラバラな動機を持ったメンバーがダンスを通じて生きる喜びを見出していくアップテンポでコメディ要素の強い前半から、影で繰り広げられる米兵と北朝鮮兵の争いが公演に向けて練習を重ね、結束を強めていくチームの先行きに影を落とすという後半のハードな展開は、戦争の哀しみや重さを改めて認識させられます。ダンスシーンにはデヴィッド・ボウイや韓国のポップミュージックなど時代考証をあえて無視した音楽が使われており、そしてラストにはあの名曲が……というのも見どころ。(永)