第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
昭和16年の東京。中国問題の権威として活躍する野毛(藤田)と社会人として自立した幸枝(原)は結ばれる。しかし、野毛は逮捕され、幸枝は参考人となってしまう。ファシズムの激しい時代の波に自分の信念を曲げず生きる女性・幸枝の姿を描く。
「これがはじめて僕にとっては作品のうえでものが言える写真だな。」 黒澤監督は本作をこう説明している。
映画は現在の姿を映す鏡で、映画は時代と対抗することができると僕は思っている。戦後、暗い日本にひとつの光。ファシズムの嵐に挑んだ社会主義者と自由主義者の鎮魂を描き、自我の確立を描く。時代の変化により新たな価値観や話題や問題が起こっている。この映画ではファシズムを通して「自我の尊重」を描いている。今、自我により苦しむ人、悩む人が少なからずいると思う。それでも負けない。逃げない。この映画はそう伝えようとしているのだと僕は思う。(凛)
男気のある貧乏医師・真田(志村)は、やくざの松永(三船)を手当てしたことがきっかけで彼が結核に冒されているのを知り、その治療を必死に試みる。しかし若く血気盛んな松永は素直になれず威勢を張るばかり。松永は闇市を取り仕切る確執のなかで急激に命を縮めていく。
黒澤明と三船敏郎が初めてのタッグを組んだ作品。戦後の闇市というあの時代にしかなかった環境が見事に切り抜かれて描かれていた。闇市で一生懸命暮らす人々、華やかに盛り上がる盛り場、その一歩裏に入った所の水たまりだらけの空き地、今では見られない光景が高度成長期以降の生まれの自分にはとても印象的だった。
『酔いどれ天使』というタイトルからどんな天使かと思っていたら志村喬が天使なのかとニンマリしてしまった。その主役の酔いどれ天使の志村喬に相対しギラギラした目で松永を演じきった三船敏郎がこの後に黒澤明監督とのコンビで数々の名作を生み出すと思うととても感慨深い作品だった。この後、『赤ひげ』も観たくなった。(青)