第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
長崎県に住む亮太(井浦)は35歳。幼い頃に別れた父が借金とともに残していったガラス細工会社を受け継ぎ、経営を立て直しつつある。ある日、妻の友里恵(遠藤)から妊娠を告げられ、喜びながらも父親になることへの一抹の不安を覚える。そんな折、母の元子(木内)と兄(大橋)が、街で父を見かけたと言い出した。兄と父を捜し始めた亮太は、自分たちと別れた後の父の人生に思いを馳せる。
監督の横尾初喜監督の半自伝的な作品として監督の故郷である長崎の佐世保で撮影がおこなわれた本作。弟と兄の【兄弟】だけでなく、親子として家族として、そして監督の心象風景でもある長崎佐世保の風景が優しく映し出されるお話。
人として色々と問題のある奔放なキャラクターである兄と、真面目なんだけど考え込む少しナイーブな印象の弟。映画ではよく見る兄弟二人の対比だけど、井浦新さんの優しげな口調や、虚言癖のある不安定だけど時折兄としての顔をしっかりと見せる大橋彰さん(アキラ100%)の熱演がとても印象的だった。
当たり前のようであって、当たり前ではないのが家族。何気ない日常と町の景色が丁寧に撮し出されていて、そこに井浦新さんやベテランの役者の方々の演技が優しく入り込んでいた。
兄弟を想い、父を想い、母を想い、愛する人を想い、子を想う。当たり前だけど当たり前ではない家族を思える優しさが素晴らしい。(青)
鎌倉からやって来た作家の平岡衛星(井浦)は線路そばに部屋を借り、嵐電にまつわる不思議な話を取材し始める。修学旅行で青森から来た北門南天(窪瀬)は電車を8mmカメラで撮影する地元の少年・有村子午線(石田)と出会う。太秦撮影所近くのカフェで働く小倉嘉子(大西)は、東京から来た俳優・吉田譜雨(金井)に京都弁の指導をすることになるが……。
どうして旅に出なかったんだ、と思いながらも、旅するように生活に入りこむ路面電車に身をまかせた。冬の光に包まれて京都の街なかを走る嵐電はなんだか勇ましく、夜の波間に浮かんでは消える姿は猫バスのようだ。歴史を積み重ねた古都の神話性や異界の磁場を感じながら、出会うはずもなかった人たちがふいに駅のホームで交わったり離れていくさまをみて、いつのまにか嵐電の目線で日々の移ろいをみつめていく。この世界に生きているそれぞれが、呼吸するように街に開かれたり閉じていく姿に心震わされ、その美しさにただ見とれてしまう。「読み合わせ楽しかったです。帷子ノ辻駅で待っています」と絞り出る言の葉はいつしか言霊に。
大きな時のながれのなかで、人間は絶えず何かに悩まされている。電車に乗ること、カメラで撮ること、物語を書くこと、演技すること、どのような局面でも想像することで新たな視点が生まれ、私たちをどこかへ連れ出してくれる。誰かを想うことの尊さとともに、今日も嵐電は走っている。(内)
1967年生まれ、静岡県出身。京都造形芸術大学映画学科准教授。長編映画作品に『私は猫ストーカー』(2009年)、『ゲゲゲの女房』(10年)、『ジョギング渡り鳥』(16年/第8回TAMA映画賞特別賞受賞)、『ゾンからのメッセージ』(18年)などがある。俳優としても活躍し、『容疑者Xの献身』(08年)、『セトウツミ』(16年)、『あゝ、荒野』(17年)など、多数の作品に出演している。本受賞作では脚本・プロデューサーも務めている。
1948年生まれ、北海道出身。72年「赤色エレジー」でデビュー。当時、アメリカのコンテンポラリーなフォークロックやヒッピームーブメントなどに強い影響を受けながらも、その影響下に留まらず、日本の大正や昭和のロマンティックな大衆文化を彷彿とさせるオリジナリティーあふれる音楽世界を創り出す。デビューアルバム「乙女の儚夢」(70年)。代表曲に『うる星やつら』のエンディングテーマにもなった「星空サイクリング」(ヴァージンVS)(82年)、「春の嵐の夜の手品師」「いとしの第六惑星」(共に85年)、タンゴを独自表現した「バンドネオンの豹」(87年)、「佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど」(2001年)など。劇場公開作品3本を監督、俳優、執筆でも活躍。19年ニューアルバム「第三惑星物語」リリース。公式HP:www.agatamorio.com
1974年生まれ、東京都出身。98年、是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』の主演で俳優デビュー。2002年、『ピンポン』で注目を集める。その後、『蛇にピアス』(08年)、『キャタピラー』(10年)、『かぞくのくに』『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』(共に 12年 )、『そして父になる』(13年)、『止められるか、俺たちを』(18年)などに出演。本年の出演作には『赤い雪 Red Snow』『嵐電』『こはく』『宮本から君へ』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』がある。