第29回映画祭TAMA CINEMA FORUM
アルゼンチン・タンゴの革命児アストル・ピアソラ。幼少時にバンドネオンを父親から与えられ、青年となってからは、当時人気があったトロイロ楽団での活動、やがて私生活では家庭を持ち、息子と娘を持ち、豊かな音楽の才能を開花させた。しかし、伝統なタンゴの枠を超えた革新的なピアソラのタンゴは、「踊れないタンゴ」と非難される。それでも音楽への情熱は、とどまることを知らず高まるが、作曲を優先するために、次第に最愛の家族から距離を置き始める……。
鬼才アストル・ピアソラは、アルゼンチン・タンゴを「踊るための音楽」から「聴くための音楽」に進化させました。ジャズ、クラシックの要素を取り入れたピアソラのタンゴは、当時の伝統的なタンゴを聴きなれた人々から激しい批判を受けた、と言われています。
ピアソラは、幼少の頃からニューヨーク、アルゼンチン、パリと一つの場所に定住することなく放浪し続けました。彼の音楽には、その放浪者としての眼差しが宿っているように思えます。郷愁を誘うタンゴの旋律に、さまざまな国から得たインスピレーションを重ね、そして内なる故郷への思いを再現すること、そこにこそピアソラのタンゴの革新性があるといえるのかもしれません。(彰)
その類稀なるギター演奏と甘美な歌声で、世界を魅了したボサノヴァの神様、ジョアン・ジルベルト。10年以上、公の場に姿を現していない彼に会いたい一心で、ドイツ人作家とフランス人監督が時空を超えて、ジョアンゆかりの人々や土地を尋ねさまよい歩く。果たしてジョアンは彼らの前に姿を現してくれるのだろうか……?
ドイツ人ライターのマーク・フィッシャーは、ジョアン・ジルベルトに会うため、ゆかりの人々や土地を尋ね歩く。しかし、その思いを果たせぬまま、その顛末を描いた本の出版1週間前に自ら命を断ってしまう。その本をジョルジュ・ガショ監督が手にした時からこの作品は始まる。マークの本の世界をひとつひとつ映像で再現するかのようにこの作品は展開していく。マーク自身の写真や映像も随所に映し出される。マークの足跡を辿り、映像を撮り進めていくうちに、ガショ監督はマークに取り付かれたような息苦しさを感じ始める。その呪縛から逃れるため、ジョアンのマネージャーと大胆な行動に、そして感動のラストを迎える。ジョアンゆかりの人々の温かい思い、イパネマビーチをはじめとする美しい風景、映像とともに流れるボサノヴァの名曲の数々、スクリーンに映し出される心温まる歌詞、ジョアン・ジルベルトの生んだボサノヴァに温かく包まれる、心地よいひと時。(に)
音楽・放送プロデューサー/選曲家。J-WAVE「サウージ!サウダージ...」などFM音楽番組の制作と選曲を行なう。1985年から約50回ブラジルに通い、現地録音のCD制作(約15枚)にも従事。空間BGMの選曲、コンサートの企画プロデュース、ステージ構成/演出、ライター、DJ、司会、カルチャーセンター講師もつとめる。共著の「リオデジャネイロという生き方」(2016年・双葉社)、監修をつとめた「21世紀ブラジル音楽ガイド」(18年・P-Vine)発売中。「ジョアン・ジルベルトを探して」の字幕監修を担当した。http://blog.livedoor.jp/artenia/