第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
昭和19年(1944年)12月、奄美 カゲロウ島。国民学校教員として働く大平トエ(満島)は、新しく駐屯してきた海軍特攻艇の隊長朔中尉(永山)と出会う。島の子供たちに慕われ、軍歌よりも島唄を歌いたがる軍人らしくない朔にトエは惹かれていき、朔と逢瀬を重ねるようになる。しかし、時の経過と共に敵襲は激しくなり、ついに朔が出撃する日がやってきた。母の遺品の喪服を着て、短刀を胸に抱いたトエは家を飛び出し、いつもの浜辺へと無我夢中で駆けるのだった……。
朔中尉は島尾敏雄さん、大平トエは島尾ミホさん、カゲロウ島は加計呂麻島。戦後文学の最高峰「死の棘」のお二人の出会いと生と死の極限における愛を描いた作品です。原作のひとつは島尾ミホ「その夜」。私は、3回鑑賞しましたが、映画と「その夜」を何度も往還しているうちに、終戦間際の加計呂麻島の美しくも危険な自然や生霊が跋扈する神話的世界、特攻に出撃命令が下った朔中尉の足跡の砂を慟哭しながら掬って衿の内にかきいれるトエの激烈な情念がぐっと怖いくらいにリアルに感じられ、これまでにない映画体験を堪能いたしました。満島さんの圧倒的な演技力だけでなく、奄美にルーツを持つ彼女の神女としての資質によって島尾ミホさんを自らの内に呼びこんだこと、ご夫妻の長男の島尾伸三さんが台本を島の方言とミホさんの話し方で読んだ(録音)ものを提供し、奄美島唄の唄者朝崎郁恵さんが直接伝授したこと、によって、内なるものを豊穣な映像や音の表現に結実できたのだと思います。(浩)
1948年神戸生まれ、奄美大島育ち。写真家、作家。両親は作家の島尾敏雄・ミホ夫妻。74年東京造形大学造形学部写真専攻科卒業。 中国・香港の庶民生活のリポートや妻や子を被写体にその日常生活の一コマを撮り、それにエッセイを添えたシリーズなど著書多数。「月の家族」(97年)、「まほちゃんー島尾伸三写真集」(2001年)、「魚は泳ぐ―愛は悪」(06年)、「中華幻紀ー島尾伸三写真集」(08年)、「島尾敏雄とミホ 沖縄・九州」(15年、志村有弘共編)など。映画『海辺の生と死』では制作に協力している。
1978年生まれ、東京都出身。多摩美術大学芸術学部卒業。 97年、「女子高生ゴリコ」で漫画家デビュー。ファッション誌やカルチャー誌に漫画やエッセイを発表。著書に「ぼんやり小町」(2003年)、「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」(04年)、「まほちゃんの家」(07年)、「漫画真帆ちゃん」(07年)、「ガールフレンド」(11年)、「マイ・リトル・世田谷」(14年)など。両親は写真家の島尾伸三氏、潮田喜久子氏。祖父母は作家の島尾敏雄氏・島尾ミホ氏。
1965年生まれ、静岡県出身。立教大学卒業後、助監督などを経て、配給宣伝、映画制作に関わる。主なプロデュース作品として、青山真治監督『路地へ 中上健次の残したフィルム』(99年)、熊切和嘉監督『海炭市叙景』(2010年、シネマニラ国際映画祭グランプリ)、ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』(12年、キネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位)など。16年に『アレノ』で監督デビュー。17年は『海辺の生と死』(7月公開)、『月子』(8月公開)に続き、『二十六夜待ち』(出演:井浦新、黒川芽以)の公開(12月)が控えている。