第27回映画祭TAMA CINEMA FORUM
タイ、バンコク。日本人専門の歓楽街タニヤ通りの人気店で№1のラック(ポンコン)は、イサーン(タイ東北地方)から出稼ぎに出て5年が経った。ある晩、謎のパーティーで、ラックは昔の恋人オザワと5年ぶりに再会する。元自衛隊員のオザワ(富田)は、今では日本を捨てバンコクで根無し草のように小銭を稼ぐしがない沈没組。かくして、いくつもの想いを胸に秘めたラックとオザワは、バンコクを逃れるように国境の街ノンカーイへと向かう……。
古来、国境紛争に翻弄され続けたイサーン。物語はその雄大な“イサーンの森”の闇の奥へ、そしてラオスへと、かつてインドシナを深く抉ったベトナム戦争の癒えぬ傷を映しはじめる――。
郊外を取り巻く状況への激昂を見せた『サウダーヂ』から6年。更に激烈なアジテートを予想していたが、いざ蓋を開ければ『バンコクナイツ』はどこか諦念したような男が奇妙な彷徨をする風変わりなロードムービーだった。だが一種、迂遠な語り口の細部を見ていけば、そこかしこに状況への疑問と抵抗が見てとれる。負の歴史と個人を越えた状況に知らず知らず呑み込まれるという、世界の有り様への対峙として空族が選んだ方法は身一つで歴史により周縁化された東南アジアに飛び込むことだった。そしてそこでカメラに捉えられたものは負の歴史と欲望が横たわる傷だらけの桃源郷だった。その桃源郷を清濁併せ呑み込み、映し出すことで周縁化されたその世界を地続きの、私たちの今いる世界へと繋げることに成功した。(松)
1974年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学シネマ研究会を経て空族に参加。監督作『花物語バビロン』(97年) が山形国際ドキュメンタリー映画祭にて上映。『かたびら街』(2003年)は富田監督作品『雲の上』と共に7ヶ月間にわたり公開。空族結成以来、『国道20号線』(07年)、『サウダーヂ』(11年)、『チェンライの娘』(12年)、『バンコクナイツ』(16年)と、富田監督作品の共同脚本を務めている。自身監督最新作はライフワークである東南アジア三部作の第2弾、『バビロン2 -THE OZAWA-』(12年)。
1971年生まれ、東京都出身。99年、パリ第三大学映画視聴覚研究科DEA課程修了(フランス政府給費留学生)。2004年4月、龍谷大学経営学部講師に就任、現在は同大学同学部教授。映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」(勁草書房)及び仏・映画批評誌「VERTIGO」元編集委員。著書に「本の専制、奴隷の叛逆 「南欧」先鋭思想家8人に訊く ヨーロッパ情勢徹底分析」(16年、航思社)、「暴力階級とは何か 情勢下の政治哲学2011-2015」(15年、航思社)、「アントニオ・ネグリ 革命の哲学」(13年、青土社)、「絶望論 革命的になることについて」(13年、月曜社)、「蜂起とともに愛がはじまる 思想/政治のための32章」(12年、河出書房新社)、「シネキャピタル」(09年、洛北出版)、「闘争の最小回路 南米の政治空間に学ぶ変革のレッスン」(06年、人文書院)、「美味しい料理の哲学」(05年、河出書房新社)、「シネマの大義 廣瀬純映画論集」(17年、フィルムアート社)。