第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM
第12回TAMA映画賞最優秀作品賞を受賞した岩井俊二監督と、主演の斎藤工さんをお迎えして、2020年らしい本作製作の裏側やお二人の表現者としての深い思いなどに迫りました。なお、本作は売り上げの一部を苦境に直面したミニシアター支援に充当していることから、TAMA映画フォーラム実行委員会もこの趣旨に賛同し、本プログラムの売上全額を支援に充当させていただきました。
斎藤工さんは本作が岩井監督作品初出演。岩井監督は樋口監督(本作では出演者として登場)より「カプセル怪獣計画」のお話をもらったことがきっかけで、構想がどんどん膨らみ、斎藤さんを主演に迎えることになったとのこと。2020年は全世界が新型コロナウィルスという脅威に直面しましたが、本作は全編リモート撮影といった2020年らしい手法を使っており、岩井監督は「本作品はコロナと戦うべくして出てきたような、勢いがある不思議な作品」とコメント。ベトナム戦争によって暗雲が漂う社会を明るく照らしたのは楽しい夢や希望だったという子供の頃の体験から、自分自身が人々を照らすものを作りたいと思い続けてきたとのことで、「みんなが険しい深刻な顔をしてしまうと、どんどん悪い方に行ってしまうので、少しでも癒しになったり、笑顔になれたりするものが僕らに要求されている気がしてます」と表現者としての思いを語ってくださいました。
斎藤工さんは、会場にお越しいただいたお子様からの好きな歌は?との質問に対し、岩井監督が作詞をした東日本大震災の復興応援ソング『花は咲く』を聞くと「イントロが流れる時点でグッと込み上げてくるものがあり、不思議と当時のことを思い出すが、同時に古くない。・・・いつも何か起きた時に音の力で人々を勇気づける初動の早いミュージシャンたちに、同じ表現者として自分は何が出来るのかと考えさせられる」と応答。斎藤さんからもお子様への語りかけがあったりと、会場のお客さまも参加しての市民映画祭らしいなごやかな雰囲気になりました。
高校生の時に岩井監督の代表作の一つ『スワロウテイル』に影響を受けたというお客様の質問に、岩井監督は、「素晴らしい作品を子どものころから観てきた恩返しとして、子供たちに向けてSFや近未来作品をつくりたい」と。斎藤さんは新型コロナウィルス禍の「今と接続した表現というのは今作られるべき作品」との思いから、この夏短編映画『ATEOTD』(アテオット)を製作。100年に一度の世界的疫病により人類滅亡の危機にある2120年の世界を描いた作品は本作や『スワロウテイル』に触発されたものであり、「作品からしかDNAを採取出来ないが、逆に言うとそれが出来るのも映画である」と大林宣彦監督や岩井監督からのバトンを自分なりに大切にして繋いでいきたいとの思いを語っていただきました。最後に岩井監督からは、サンダンス映画祭の事例から、TAMA映画祭は世界中で有名になれる映画祭のポテンシャルがあり、今後も素敵な映画祭に発展してもらえると嬉しいとのお言葉をいただきました。
井浦新さん、渡辺真起子さんと共に「ミニシアターパーク」を設立しコロナ禍で苦境に直面したミニシアター支援に取り組んでいる斎藤工さんは、日本の映画祭やミニシアター、インディーズ映画における資金循環は血管が詰まったようだと語られ、ふるさと納税を活用した奈良国際映画祭の事例から映画館と観客と映画製作者の新たな様式に向けた取り組みや海外の事例を踏まえた国とエンターテイメントの健全な関係性の必要性に言及。TAMA映画祭について特別な大切な映画祭、多くの映画人に光を当てる映画祭と評価していただくともに今後も続けていくための示唆をいただきました。
岩井監督、斎藤工さんに深く感謝いたしますとともに、来場してくれたお客様、様々な支援をいただいた企業や個人、映画の配給会社、映画監督・スタッフ・キャスト、映画祭でゲストトークにお越しいただいた映画評論家、ミュージシャンなどTAMA CINEMA FORUM(広場)に集っていただいた皆さまにお礼申し上げます。そしてお二人から最高のエールをいただいたことをしっかりと胸に刻み、これからも「見る人、見せる人、創る人」の交流の場づくりに取り組み、新たなコミュニティづくりと日本映画の活性化に寄与したいと思います。