第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM
本プログラムは、ピンク映画出身の鬼才と呼ばれるいまおかしんじ監督と城定秀夫監督が、奇しくも2020年一般映画の傑作を公開したことから、作品の上映とトークセッションによりお二人の魅力に迫ろうと企画しました。いまおか監督作品は『れいこいるか』、城定監督作品は『アルプススタンドのはしの方』で、後者は第12回TAMA映画賞特別賞を受賞したことから記念の舞台挨拶もトーク後に実施しました。
1.トークセッション
いまおか監督、城定監督に加え、『れいこいるか』ご出演の佐藤宏氏と西山真来氏にも参加いただき、お二人の作品に精通した文筆家の切通理作氏を聞き手として実施しました。ハイライトは、両監督がお互いに相手をどう思っていてその作品をどう見たかということ。
城定監督は「途中からずっと泣いていた。いまおかさんの集大成であり、見続けていたので改めてすごい人だなと思った。登場人物は、自分に重なる部分があるし、そういう人間を肯定し、ドラマチックにやるわけではなく自然とそういう人たちが許されていく様は見ててうれしい感じがした」と敬意を込めて称賛。
いまおか監督も「今日で3回目の鑑賞、それでも泣けてしょうがない。(藤野君が)野球部辞めたという話をするとき、下手なのに練習ばっかりしている矢野より辞めた俺の方が正解だよねと言っている顔がすごく寂しそう。そういう芝居が全体的にあって、セリフの裏が広がってくる。野球シーンを映さないのに矢野君とか園田君の顔が勝手に広がっちゃう。狭いところ撮っているのに広がりがある。城定監督は、低予算の天才、すばらしいな」とお互いに泣けたことなどを吐露。
西山さんは、『れいこいるか』主演の武田暁さんをいまおか監督に紹介したことについて「すごく好きな女優さんで、いまおかさんも好きな監督さんなので好きな人と好きな人同士を会わせてめっちゃ好きな映画ができてうれしい」と喜々と語ってくれました。
切通さんが「(アルプススタンドのはしの方の)高校演劇版と商業演劇版の映像を事前に見てきましたが、商業演劇版で初めて出てきた厚木先生が、映画版ではすごくよくなってました」と述べたことをうけ、佐藤さんは、「高校はシード校だったので在校生全員がひと文字の練習をさせられましたが、あんな先生いましたよ。野球部の先生でもないのに応援を指図する。空気感はあんな感じでしたよ」とフォロー。撮影期間や登場キャラクターなどの話題も展開して、充実した濃密なトークセッションを通して両監督に魅了されたプログラムになりました。
2.『アルプススタンドのはしの方』TAMA映画賞特別賞受賞記念舞台挨拶
映画のブラスバンド演奏を担った平塚市の市民楽団「シエロウインドシンフォニー」製作の動画(エンディング曲「青すぎる空」をブラバンで演奏)を上映後、応援曲アルプス一万尺、カチューシャ、トレイン・トレインを7人編成の生演奏で披露。その後、城定監督、出演の平井珠生氏、シエロウインドシンフォニーの皆さんに登壇いただき、舞台挨拶をしていただきました。
城定監督はシエロウインドシンフォニーさんの映画出演について、「演奏してくれる楽団を探していたが全然見つからず、プロに依頼する予算もなく、撮影できないと思っていたこところに現れた神様」と感謝。動画について平井珠生さんは、「『青すぎる空』が大好きで家でもずっと聴いたり歌ったりしていますが、ブラスバンド版を映像で視聴して味わいがあると思いましたし、ドローン撮影とか矢野くんらしき人が出ていたりとか、映像演出にもびっくりして感激しました」と絶賛。シエロウインドシンフォニーの田尻団長は、「原曲の疾走感のある明るいイメージを崩さないよう編曲をしましたが、団員も若いので勢いのある感じをプラスするという点に気をつけて演奏しました。新型コロナウイルス影響で定期演奏会を中止しましたが、映画に参加させていただいたことで私たちを知っていただくいい機会をいただきものすごく励みになりました」と語っていました。
城定監督の平井さんについての「役は舞台版にはなく最初名前もなかった。お会いして面白い子だなぁと思い現場でいろいろ付け足してすごく立体的になり、いろいろな人のハートをがっちり掴んでいる役になったなぁとすごくうれしく思っています」との話を受けて、平井さんは「最初台本の意地悪なキャラに引っ張られていたけど、現場で演じていくうちに進藤サチという役の余白みたいなものを自分で作ったり監督から言われるものを付け足してキャラクターが完成しました。皆さんに高校時代にクラスにひとりはああいう子がいたなと共感していただけるようなキャラクターにできたらと思って、女子高生時代の自分を多少トレースしながらお芝居しました」と役づくりについて披露。
最後に城定監督からTAMA映画賞受賞について「この映画ができあがったとき新型コロナウイルス感染拡大影響で世の中が大変なことになっていたのですが、そんな中で多くのひとに見ていただいていろいろな運命に導かれて今があるなと思っています。映画作ったときは賞とか夢にも思ってなかったので本当にうれしく思っております」とのステキなコメントで締めていただきました。
TAMA映画フォーラム実行委員会は、「見る人、見せる人、創る人」の交流の場づくりを目指しておりますが、まさに『アルプススタンドのはしの方』という映画作品とこのプログラムによって、お客様と私たちと監督・キャスト・スタッフの交流が実現できたのではないかと思います。特に同じ市民団体ということで映画を通じて私たちとシエロウインドシンフォニーの皆さまとの出会いがあったこともとても意義深いものだと考えています。なお、新型コロナウイルス感染拡大防止対応を図りつつ、プログラムを実施するには、出演者及び関係者、ご来場のお客様、会場施設の皆さまなど多くの人たちの多大なる協力なしではできませんでした。ここに深く感謝申し上げますとともに、今後も皆さまに楽しんでいただける魅力的なプログラムを実施して参りたいと思います。
鬼才の狂宴 いまおかしんじ監督×城定秀夫監督 | 第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM