数々の国際賞に輝く佐々木昭一郎の
みずみずしい感性にあふれた待望の新作
佐々木昭一郎は唯一無二の映像作家である。彼の創作に対する真摯な姿勢は今や伝説となっている。佐々木はテレビ演出家として、イタリア賞や芸術祭大賞など内外の数多くの賞に輝いた。彼の作品「四季・ユートピアノ」(1980)、「川の流れはバイオリンの音」(1981)など、類まれな詩的感性、斬新でみずみずしい映像で作られたドラマは、多くの人を魅了し、後進の作家に強い影響を与えている。しかし佐々木は退職後、人々の前から姿を消し、旧作の上映会は常に満席にもかかわらず、新作のニュースを聞くことはなかった。「ミンヨン 倍音の法則」は彼の20年近くの沈黙を破る待望の新作であり、初の劇映画作品である。
ソウルの学生、主人公のミンヨンは一枚の古い写真に心をとらわれている。亡き祖母の親友、佐々木すえ子の家族写真だ。すえ子への思いが募るミンヨンは、妹ユンヨンの後を追うように日本へ。そこで巡りあう人々、母に捨てられた少年、何者かに追われるジャーナリスト、風鈴職人、サッカー笛の職人、塩作りの老人、長崎へ旅する神父の姿をした男‥‥さらに彼女は時代を超えて、太平洋戦争中のすえ子の人生を生きるようになる。戦時の統制下で、すえ子の一家は人間らしく生きようとしたために様々な苦難を経験したのだった。――現代社会の不安のなか、ミンヨンは人々との交流や音楽の歓びをとおしてハーモニーへの夢を育んでゆく。
出演者はすべて、佐々木のこれまでの作品と同様に、この映画のために起用された一般の人たちだ。彼らに演技経験はないが、佐々木の手をとおして魔法のように圧倒的な存在感を感じさせる。主人公のミンヨンを演じるのは韓国在住のミンヨン。そしてメインスタッフには、佐々木作品の3人の名手、吉田秀夫(撮影)、岩崎進(音響)、松本哲夫(編集)が再び結集し、それぞれに卓越した技で映画をより豊かなものにした。
佐々木は現代社会の歪んだ状況に対して、この作品で音楽の豊かさを表した。使用音楽のすべては彼の選曲であり、「箱根八里」「アリラン」などの日本と韓国の歌曲のほか、W・A・モーツァルトの名曲を全編で使用、交響曲第41番「ジュピター」は武藤英明指揮(プラハ管弦楽団)によるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、ピアノ協奏曲第22番は佐々木秋子のピアノによる。また全国一に輝く船橋市立船橋高等学校吹奏楽部、世界で活躍する若きギタリスト加藤早紀など、注目される個性ある演奏家が参加している。
1936年 | 1月25日、東京生まれ。立教大学経済学部卒。 |
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1960年 | NHKに採用され、ラジオのクイズ番組、録音構成番組を担当。 |
1963年 | 「手は手、足は足」(宮本研脚本)でデビュー。ラジオ小劇場「都会の二つの顔」 ラジオテレビ記者会年間最優秀作品賞を受賞し、翌年、再放送で芸術祭に参加、奨励賞を受賞する。「都会の二つの顔」は、佐々木の全ての作品の原点となる。 |
1965年 | 芸術劇場「おはよう、インディア」 ラジオテレビ記者会年間最優秀作品賞を受賞し、翌1966年芸術祭大賞を受賞。 |
1966年 | 「コメット・イケヤ」 イタリア賞ラジオドラマ部門グランプリ。 |
1971年 | 「マザー」モンテカルロ国際テレビ祭ゴールデン・ニンフ賞受賞。「さすらい」 芸術祭大賞。「マザー」と「さすらい」により芸術選奨新人賞。遠藤利男プロデューサーとのコンビによる「マザー」「さすらい」の連続受賞は、以後の佐々木ドラマの基盤となった。 |
1974年 | 「夢の島少女」 |
1975年 | 「紅い花」 76年度芸術祭テレビドラマ部門大賞、テレビ大賞個人賞。77年国際エミー賞優秀作品賞。 |
1980年 | 「四季・ユートピアノ」 イタリア賞グランプリ、国際エミー賞最優秀作品賞。 |
1981年 | 「川の流れはバイオリンの音」 芸術祭大賞、イタリア市民賞。 |
1983年 | 「アンダルシアの虹」 プラハ国際テレビ祭最優秀監督賞。 |
1984年 | 「春・音の光」 芸術祭優秀賞。 |
1989年 | 「七色村」バンフ国際テレビ祭審査員特別賞、ゴールデン・フリース国際テレビ祭特別賞。 |
1991年 | 「ヤン・レツル物語~広島ドームを建てた男」 |
1993年 | 「パラダイス オヴ パラダイス~母の声」 |
1994年 | 「八月の叫び」 |
NHKを退局、その後はフリーディレクターとして活動。佐々木は、イタリア賞(世界最大の規模と伝統を誇るラジオ・テレビの国際コンクール)で、世界初のラジオ・テレビ両部門でのグランプリ受賞者である。また芸術祭大賞のラジオ、テレビ両部門での受賞者でもある。1981年からは、イタリア賞、モンテカルロ国際テレビ祭、プラハ国際テレビ祭、バンフテレビ祭など、国際審査員を21回務め(審査委員長も含む)、以降は自作の各国テレビ祭参加を退く。引退後は文教大学で2005年まで教壇に立つ。
2001年と2002年には「RESPECT佐々木昭一郎」と題した特集上映が映画祭TAMA CINEMA FORUMにて行なわれる。
リンク:第11回映画祭TAMA CINEMA FORUMプログラム:RESPECT 佐々木昭一郎
リンク:第12回映画祭TAMA CINEMA FORUMプログラム:創るということ
プラハ郊外のドブジーシュ生まれ。1990年プラハ・カレル大学哲学部日本学科入学、早稲田大学大学院文学研究科にて歌舞伎を研究、06年同大学大学院博士課程を卒業。06年から13年チェコセンター東京初代所長を務め、ヤン・シュヴァンクマイエル、ヴィエラ・ヒチロヴァー、イジー・トルンカ監督の映画字幕作成や書籍翻訳、関連書籍の執筆などの実績を積む。 現在、埼玉大学兼任講師。また未だ知られざるチェコ文化・芸術の紹介と普及を目的にした「チェコ蔵」を主宰し、チェコ文化を広く日本に紹介している。本作では、神父役として出演。
リンク:チェコ蔵
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