第12回は、引き続きパルテノン多摩改修工事中のため、「府中の森 どりーむホール」で開催しました。授賞式には、大林恭子プロデューサーと『海辺の映画館-キネマの玉手箱』スタッフ・キャスト7名、岩井俊二監督、福山雅治さん、濱田岳さん、水川あさみさん、大森立嗣監督(長澤まさみさん代理)、城定秀夫監督、岩井澤健治監督、宮沢氷魚さん、松本穂香さん、森七菜さん、ふくだももこ監督がご登壇。北村匠海さんがビデオメッセージで、HIKARI監督がリモートで参加されました。
開場前、例年のような長蛇の列ではなく、どりーむホール前の広い広場に整然と入場順に区分けされていく様子がコロナ渦の新様式を思わせました。『海辺の映画館-キネマの玉手箱』上映終了後、一旦降りた幕が上がると多数のアクリル板が並べられた舞台が現れ、豪華ご登壇者をお迎えしてのセレモニーが始まる緊張感に包まれました。
第12回TAMA映画賞授賞式を受賞者コメントから振り返ります。トップバッターは最優秀新進監督賞のふくだももこ監督。出産されたばかりの監督は司会者から二重のお祝いの言葉を贈られると笑顔で応え、「映画業界に保育部を作りたいとずっと思っていました。監督に子どもがおることは結構な圧力になるので、色々な人たちが働きやすい環境を作っていけたら。応援してください!」と未来を見据えた力強いメッセージをいただきました。お二人目のHIKARI監督はリモートでご参加。「(『37セカンズ』主演の)佳山明(めい)さんはオーディションの際、か細い声に惹きつけられたのですが、更に彼女が現場での状況を受け入れて対応していく姿が素晴らしかった」と主演の佳山さんを賞賛されました。
最優秀新進女優賞では、まず森七菜さんが登場。段取りを間違えて「あ、今からか」と場内をほのぼのとさせた後、「今年は『なんだこの小娘はいきなり現れて?』と『?』と思われた方が多かったと思いますが、来年はそれを『なるほど!』と『!』マークに変えるような1年にしたい」と抱負を語られました。松本穂香さんは、『君が世界のはじまり』のふくだももこ監督との同時受賞を喜んでくださり、アクリル板越しに並んだふくだ監督から「静かな情熱をもっていてどんどんきれいになっている。監督と女優の関係でずっと撮り続けたい」と熱烈なラブコールを受けられていられました。
続く最優秀新進男優賞では北村匠海さんがビデオメッセージをくださり、「"新進"、新たに進むという言葉に恥じないように頑張りたい」と力強く抱負を語ってくださりました。宮沢氷魚さんは、「俳優になって3年、初めて受賞した賞なので一生忘れないと思う」と映画祭スタッフに嬉しい言葉をくださりました。
特別賞では、『音楽』を7年間かけて製作された岩井澤健治監督は「長い時間をかけて制作すると面倒くさい奴と思われるのか仕事のオファーはないけれど、今後も個人制作を続けていきます」と志を語ってくださりました。『アルプススタンドのはしの方』では城定秀夫監督と主要キャスト5名がご登壇。各々が作品への想いを語った後、城定監督が「(司会者から命名された)天才料理人にふさわしい映画を作り、またこの場に呼ばれるに頑張りたい」と締めくくってくださりました。
最優秀女優賞では、長澤まさみさんの代理の『MOTHER マザー』大森立嗣監督が「厳しい役に挑んでくれた長澤さんに感謝しています。やってきたことに間違いがなかったことを改めて思った」と語ってくださりました。水川あさみさんは「(『喜劇 愛妻物語』の)脚本をいただいたときに絶対にこの役をやりたいと思った。この作品で賞をいただけたこと、この受賞を泣いて喜んでくれたスタッフの方々に感謝したい」と喜びを語られました。
最優秀男優賞では、濱田岳さん受賞の際に『喜劇 愛妻物語』で妻役の水川あさみさんと本作夫婦のモデルとなった足立紳監督ご夫妻が登壇され、妻が夫を罵倒する夫婦像について話が盛り上がりました。福山雅治さんは、「(『ラストレター』の)乙坂鏡史郎は十代を演じた神木隆之介さんと二人で作った役なので、今度神木さんに会ったら何かおごります」と観客の笑いを誘っておられました。
最優秀作品賞では、『ラストレター』の岩井俊二監督は、福山雅治さん、森七菜さんと現場の雰囲気について語った後「コロナ禍の状況が続くなか、皆さんに喜んでもらえるものを創り出していきたい」と抱負を語られました。大トリの『海辺の映画館-キネマの玉手箱』チームとなり、大林恭子プロデューサー、奥山和由プロデューサー、常盤貴子さんほか7名がご登壇。一人一人大林宣彦監督への想いを語った後、最後に恭子夫人が「大林監督が観客の皆さんに伝えたかった言葉があります。ありがとうという言葉です。監督から、ありがとうございました」と頭を下げて締めくくってくださり、拍手と熱い想いのなか幕を閉じました。
-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-
『海辺の映画館-キネマの玉手箱』
大林宣彦監督、及びスタッフ・キャスト一同
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大林監督の頭の中に蓄積された膨大な映画の記憶・映像世界をすべて叩き込んだと思われる、壮大かつ鮮烈なイマジネーションが炸裂し、戦争とは何か人間の本性とは何かを明示しつつ、映画の未来は明るいと観客に希望を託した。 |
『ラストレター』
岩井俊二監督、及びスタッフ・キャスト一同
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初恋の記憶・亡き母の人生が「手紙」によって現在に呼び起こされ、過去への憧憬や悲しみを抱きながらも人生を歩みつづける希望として、登場人物たちの心に差し込んでいくさまを、瑞々しい映像と多面的な物語のなかで描きあげた。 |
-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-
高校演劇の素晴らしさを発信すると共に映画ならではの表現であらゆる世代の共感の輪を広げた『アルプススタンドのはしの方』に対して
城定秀夫監督、及びスタッフ・キャスト一同
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応援席の高校生たちにフォーカスしたカメラフレームは、風で揺れる木々やブラスバンドの演奏、打球音を織り込み、「しょうがない」から「ガンバレ」へと感情の変化を捉え、観客をアルプススタンドに引き込んで、落涙するほどの感動を与えた。 |
手作りアニメーションのきめ細かいモーションによって音楽のエモーションを伝えた『音楽』に対して
岩井澤健治監督、及びスタッフ・キャスト一同
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音楽に縁遠かった男子高校生たちが初めて音を出した喜びからその魅力に目覚めていくさまを、繊細且つ膨大な線の動きと音楽のシンクロによってエモーショナルな作品に仕上げ、観客を興奮の坩堝に誘い込んだ。 |
-本年度最も心に残った男優を表彰-
福山雅治
『ラストレター』『マチネの終わりに』
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『ラストレター』において、若かりし日の恋慕を引きずりつつも前を向かないといけないと逡巡する作家の姿を、一文字一文字大切に綴る手紙の如くワンシーンごとに情感をこめて演じることにより、作品の世界観に溶け込み、観客の心に強く響いた。 |
濱田岳
『喜劇 愛妻物語』『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』『決算!忠臣蔵』『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』
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『喜劇 愛妻物語』において、妻との丁々発止のやりとりのなかでダメ男の願望やリアクションを絶妙の間で展開しつつも、根っこにある家族への愛情をにじませ、どこにでも居そうだけれど唯一無二のにくめないキャラクターを創りあげた。 |
-本年度最も心に残った女優を表彰-
水川あさみ
『喜劇 愛妻物語』『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』『ミッドナイトスワン』
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『喜劇 愛妻物語』において、うだつの上がらない夫に浴びせる辛辣で小気味良い罵倒で悪態をつきつつも、心のどこかで夫を信じ、期待している芯の強さを示し、切れ味ある演技に悲喜交々をまとわせて一段の進境を示した。 |
長澤まさみ
『MOTHER マザー』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』
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『MOTHER マザー』において、感情移入する毎に絶望の底へ観客を落とし込むかのごとく翻弄し、脳裏から離れられない凄みを表現した。壮絶なまでの“影”に挑み、自堕落でありながら魅惑的な母親を演じることで、新境地をスクリーンに刻み付けた。 |
-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-
HIKARI監督
『37セカンズ』
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生まれつき障がいをもつ一人の女性が、人生の喜びを得たいと願い、愛がゆえに掛け違う母との関係をも克服しながら、殻を破って自分の世界を輝かせていくさまを、アニメーションや漫画などを織り交ぜ、多彩に表現してみせた。 |
ふくだももこ監督
『君が世界のはじまり』
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さまざまな悩みを抱え、一筋縄ではいかない高校生たちの心の内側を描きあげた。孤独を感じる彼らが人を想うことで痛みを伴いながらも他者と心を通わせようと世界を切り拓いていく姿に勇気づけられた。 |
-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-
宮沢氷魚
『his』
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物静かな佇まいと透き通るような眼差しは、孤独や不安など、心の揺れ動くさまをありのままに表現し、葛藤しながらも壁を乗り越えていく姿からは、静かな力強さが感じられた。役に真摯に向き合う姿勢は、表現者としてのさらなる飛躍を予感させる。 |
北村匠海
『サヨナラまでの30分』『思い、思われ、ふり、ふられ』『影踏み』『ぼくらの7日間戦争』『思い、思われ、ふり、ふられ(アニメ版)』
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憂いをおびた眼差しや細やかな心情を表現するふとした仕草で魅了するだけでなく、心に届く声のトーンでも観客の共感を呼び覚ました。どのジャンルにおいても地に足の着いたキャラクターとして存在させる力は、今後の躍進を確信させた。 |
-本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-
松本穂香
『君が世界のはじまり』『わたしは光をにぎっている』『酔うと化け物になる父がつらい』『his』『青くて痛くて脆い』
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映画の情景と調和する創造的な柔軟性で、時に言葉以上に全身の表情やふるまいで語り、作品に確かなリアリティを与えてくれた。静かな情熱に支えられた豊かな表現力でこの先より高く羽ばたくことを感じさせる。 |
森七菜
『ラストレター』『青くて痛くて脆い』『地獄少女』『最初の晩餐』
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『ラストレター』において、天真爛漫な役を輝くような透明感をもって活き活きと演じ、物語に爽やかな風を送り込んだ。高い感受性で、あどけなさから愁いをおびた表情まで豊かに表現する姿は、女優としての未来を期待させる。 |