開催日:2015年11月21日(土)
会場:パルテノン多摩 大ホール
授賞式上映作品(上映順):
『きみはいい子』『海街diary』『あん』

授賞式には、是枝裕和監督、呉美保監督、塚本晋也監督、森優作さん、永瀬正敏さん、綾野剛さん、樹木希林さん、綾瀬はるかさん、岨手由貴子監督、松居大悟監督、中島歩さん、野村周平さん、広瀬すずさん、杉咲花さんが登壇されました。

第7回TAMA映画賞授賞式を、受賞者のコメントから振り返りましょう。呉美保監督は「賞をいただけたことが個人的にも作品としてもすごく嬉しいです」と、是枝裕和監督は「受賞理由を読んで、とても幸せな気持ちになりました」とそれぞれ受賞の喜びを語ってくださいました。

塚本晋也監督が「時代が大きく変わっているのに誰も動こうとしない風潮に危険を感じて、今、作らないといけないと思った」と熱く語ると、森優作さんは「オーディションで塚本監督にお会いした時に、この眼は本当にすごいなと思ってついていこうと思いました」と当時を振り返りました。

樹木希林さんは海外でのお仕事中でしたが、ビデオメッセージを寄せてくださいました。「歳をとりますと白髪になり、シワが出来、たるんでそういうものが人間なんですけど、役者っていうのはそれが仕事になるという大変効率のいい職業だなっと思っております。その上に最優秀女優賞なんていただけてバンザイでございます」とチャーミングに喜びを語りました。

綾瀬はるかさんはギリギリまでご登壇調整されていたので、舞台に登場されたときは客席から「オオーッ」との声が上がりました。「(海街diaryでの役柄について)自分とはかけ離れたキャラクターだと思っていましたが、演じていく中で似ている部分を見つけられたりして。新しい挑戦でしたね」と晴れやかな笑顔を見せ、観客を魅了されました。

綾野剛さんは「今後も役を生きて、呼吸をして、皆さんの前にお届けしていきたいです」と語り、永瀬正敏さんは(樹木希林さんのビデオメッセージを引用して)「シワができて、たるんできても使っていただけるような役者でいたいと思います」と今後の抱負を語りました。

岨手監督は「デビューしたときしかいただけない賞なので励まされました」と、松居監督は「映画は人とぶつかりあいながら作れるものだと思っていて、そこに価値を感じています」とそれぞれコメントされました。

中島歩さんは抱負を聞かれ、「今後映画の予定はありません。どなたか僕を映画に使ってください」とアピールして、場内を爆笑ともに拍手が沸き起こりました。杉咲花さんは「松永監督が怖かったのですが、絶対負けたくないと思いながら、食らいつくように演じていました」と撮影時を振り返り、広瀬すずさんは「これからたくさんの経験を重ねて、いろんな色に染まれたらいいなと思います」と今後の抱負を語られました。杉咲さん、広瀬さんと共演している野村周平さんは、お二人に「現場ではいつも華やかでいてくれてありがとう。今日は一段ときれいだね」と話されて客席を沸かせました。

ギャラリー
映画賞エピソード

樹木希林さんのご配慮

樹木希林さんはこれまで最優秀女優賞を2回受賞されています。最初は第4回『わが母の記』で受賞されましたが、海外のお仕事が入っていたためご登壇できませんでした。2回目は第7回『あん』で受賞された時でした。このとき授賞式は日程があわなかったため、授賞式で流すビデオメッセージを事前に撮影しました。緊張しながらビデオ撮影に伺いましたが、初めてお会いした樹木さんは普段TVで拝見しているとおり優しく私どもを迎えてくれました。また、お渡しした質問内容のメモをひとつひとつ丁寧に検討してから回答していたのが印象的でした。その後特集上映でお越しになった際は、会場にいる映画祭スタッフ一人ひとりに毛筆でサインをしてくださりました。日本を代表する大女優でありながら私どものような市民映画祭にもこまやかな配慮をしてくださる本当に素敵な(チャーミングな)女優さんだと思います。

樹木希林さんは2018年9月15日に75歳で逝去されました。心からお悔やみ申し上げます。

受賞者・受賞理由

最優秀作品賞

-本年度最も活力溢れる作品の監督、及びスタッフ・キャストに対し表彰-

『海街diary』
是枝裕和監督、及びスタッフ・キャスト一同

家族や友人との別れや死によって新たな関係が築かれていく時の移ろいを、四姉妹と街の人々の日々の営みをとおして描き、 人生がほろにがくも素晴らしいことを深く響かせてくれた。

『きみはいい子』
呉美保監督、及びスタッフ・キャスト一同

現代に生きる痛みと微細な心の震えを多面的に描くことで登場人物に寄り添い、彼らが他者との関わりを通して閉塞した日常に小さな光を見いだすさまは、等身大の救いとなる一歩前に踏み出す力を観客に与えてくれた。

特別賞

-映画ファンを魅了した事象に対し表彰-

高い志と使命感で制作され、戦争とは何かを新しい形で後世に伝えた『野火』に対して
塚本晋也監督、及びスタッフ・キャスト一同

戦場で極限状態に置かれた人間の、本能と理性のせめぎ合いを臨場感あふれる表現で描き出し、戦争体験のない観客にも真の恐怖や痛みを追体験させた。平和を誠実に希求しながら生きる礎(いしじ)として幅広い世代に強く深く永く刻まれる作品となった。

最優秀男優賞

-本年度最も心に残った男優を表彰-

永瀬正敏
『あん』『KANO~1931海の向こうの甲子園~』

役柄を心と体で受け止め、まさにそこに生活している人として演じきった。民族・病苦・差別などの壁を乗り越えて互いに敬意を払って生きていく姿の美しさを身をもって観客に示した。

綾野剛
『新宿スワン』『ピース オブ ケイク』『天空の蜂』『ソレダケ / that’s it』『S-最後の警官- 奪還RECOVERY OF OUR FUTURE』

どの役柄にも常に全力投球することで、重さと軽さのバランスを的確にコントロールし、時に屈託のない笑顔をのぞかせ、時に研ぎ澄まされた狂気も感じさせる幅広い表現力と魅力をたたえた俳優へと飛躍した。

最優秀女優賞

-本年度最も心に残った女優を表彰-

樹木希林
『あん』『駆込み女と駆出し男』『海街diary』

作品に添いながら、どの役においてもふさわしい輝きを放ち、ふくよかさとおかしみと希望とを私たちに感じさせてくれた。そして、どのような状況に置かれていても、この世に生き、存在することの素晴らしさを伝えてくれた。

綾瀬はるか
『海街diary』

鎌倉の日本家屋に住む四姉妹の家族の長としての凛とした佇まいや立ち居振る舞いの美しさは昭和の女優の面影を漂わせ、身近な人の死を受け入れることによって自己を内面から変える女性の成長を演じきった。

最優秀新進監督賞

-本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰-

岨手由貴子監督
『グッド・ストライプス』

結婚を目前にした男女の日常を独創的な視点で切り取ることで、完璧ではない人生の愛おしさを描き出し、ドラマチックでない日々のなかに幸せな瞬間があることを気付かせてくれた。

松居大悟監督
『私たちのハァハァ』『ワンダフルワールドエンド』

「今」という瞬間を夢中で駆け巡る10代の少女たちの姿を、身勝手さや儚さを交えながら等身大の目線で描き、瑞々しくも骨太な青春映画を誕生させた。

最優秀新進男優賞

-本年度最も飛躍した男優、もしくは顕著な活躍をした新人男優を表彰-

中島歩
『グッド・ストライプス』

結婚という人生の大きな節目を前にした青年が、逡巡しながらも少しずつ歩みを前に進めていくなかで見せる表情の移り変わりや佇まいに目を見張った。今後、ますます深く役柄を掘り下げ、豊かな表現力を磨いていくに違いない。

野村周平
『愛を積むひと』『日々ロック』『ビリギャル』『台風のノルダ』

内面の葛藤や周囲へのいらだちを抱えた少年期のトンネルを抜け青年へと成長していく姿を真摯に演じた。そのひたむきさは観客に強い印象を残した。

最優秀新進女優賞

-本年度最も飛躍した女優、もしくは顕著な活躍をした新人女優を表彰-

広瀬すず
『海街diary』『バケモノの子』

桜並木のトンネルを自転車で駆け抜けるシーンの爽快感、おでこをあげてドリブルするサッカーシーンの躍動感、少女のかけがえのない輝きをスクリーンに表現した存在感は、映画女優としての未来を感じさせた。

杉咲花
『トイレのピエタ』『愛を積むひと』『繕い裁つ人』

『トイレのピエタ』において、余命幾許もない青年にストレートな言葉を投げつけながら無鉄砲に思えるほど全身全霊で生の素晴らしさを伝えようとする少女の姿に胸を強く打たれた。