今年相次いで公開された大森立嗣監督の2作品を一挙上映。無差別殺傷事件や集団レイプ事件をモチーフにしながら描く、人間の不思議さ、愛おしさ、逞しさ、可能性、絶望と希望、「わからない」ことの豊かさとは――日本人として48年ぶりにモスクワ国際映画祭で受賞された大森監督。その作品の魅力、監督の眼差し、あたたかな厳しさなどを、上映とトークでお楽しみください!
11月23日(土・祝) ベルブホール 第1部
掲示板サイトに自分の劣等感や鬱憤を書き込む梶(水澤)は派遣労働者として秋葉原から長野の工場に向かう。派遣先では同様の境遇の田中(宇野)と友人になり2人の不器用なつきあいが始まる。だが、ユリ(田村)や“イケメソ”の岡田(淵上)により2人の間柄は軋みだす。岡田とともに秋葉原に向かった梶は――。
2008年に起きた秋葉原無差別殺傷事件をモチーフに作られた本作は、実録ではないがゆえに逆に、事件の本質、人間の本質を照らし出す。
誰かを愛したい、一人にしないでくれ、トモダチがほしい……主人公・梶の言動は、一見稚拙にも思えるが、それは人間が持つ根本の欲求を素直に高らかに放っているだけなのだ。
本作で描かれるトモダチの中身は、カレーや写メだったりと、実にささやかで刹那的だ。けれど観る側は気づくはずだ。夫婦や友達とは、ごく些細な共有の積み重ねであり、時には幻想とすら呼ぶべきものであることを。
大森監督が本作の最後で梶にさせた決断は監督の抱く希望や願いだと思う。けれどその最後の行動も含め作品全体の見方、判断を観る側に委ねる。それは観る側に信頼と尊敬を持っている証拠、覚悟の現れに他ならないと思う。
本作は決してわかりやすくはない。グレーゾーンも歯ごたえも充分であるがゆえに、諦めず、投げ出さず、考え続ける醍醐味を観る側にまっしぐらに投げかけてくれている。(越)
※この作品は15歳未満の方のご鑑賞はできません
緑豊かな渓谷の近くにひっそりと住む尾崎俊介(大西)と妻・かなこ(真木)。幼児殺害事件が起こり隣家の主婦が逮捕され、やがて彼女は俊介と不倫関係にあると証言。かなこもそれを認める証言をする。事件に張り付いていた週刊誌記者の渡辺(大森)は俊介の過去を洗い始め15年前のある事件に行き着く――。
公開初日初回、有楽町の劇場で観た私は、エンドロールが終わると同時に幸せなため息をついた。今、この世にこの作品が出てくれたことが嬉しくてたまらなかった。
本作は集団レイプ事件の被害者と加害者の1人が夫婦のように連れ添うことが核になっている。私は女性ゆえ、かなこ側に思いが強くなってしまいがちだが、男性の苦悩はいかばかりかと思った。彼女の元夫や俊介は、自身あるいは同性の他者の加虐により被虐を味わっているのだから。加虐と被虐の連鎖、苦しみを本作は静かに丁寧に描いている。
恐らく人は、どこかでいつか赦さなければ自己を解放できず先へ進めないと思う。かなこと俊介はそのことに誠実に苦悩し苦闘する。けれど彼らは孤絶していない。渡辺など他者からの思わぬ言動により、ふと次へと歩を進められるのだ。
「極限の愛の形」と本作はよく言われる。けれど、極限ではあっても特殊ではないと私は思う。日常のごくフツーの友人関係から古今東西の様々な事柄・事象が、かなこと俊介の関係に凝縮されてはいないだろうか。二人のような関係を持てることの尊さ、築けるだけの優しさや逞しさを人間は持ち合わせている、可能性や希望があると本作は示唆してくれていると思う。(越)
ゲスト:大森立嗣監督、水澤紳吾氏
1970年生まれ、東京都出身。プロデュース作品『波』(2001年、奥原浩志監督作品)が第31回ロッテルダム映画祭に出品、NETPAC賞を受賞。05年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー、国内外で高い評価を得る。10年『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で日本映画監督協会新人賞を受賞、11年『まほろ駅前多田便利軒』公開。本年は『ぼっちゃん』公開のほか『さよなら渓谷』がモスクワ国際映画祭審査員特別賞受賞。
1976年生まれ、宮城県出身。2004年、『マジックキッチン』(リー・チーガイ監督)にて映画デビュー。『SR サイタマノラッパー』(入江悠監督)シリーズにてMC TOM役として出演。本年は初主演作品『ぼっちゃん』が公開された他、『モンゴル野球青春記 バクシャー 』(武正晴監督)、『アイドル・イズ・デッド--ノンちゃんのプロパガンダ大戦争--」(加藤行宏監督)、『ジョーカーゲーム~脱出~』、(芦塚慎太郎監督)、『友だちと歩こう』(緒方明監督)など出演作品多数。
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